チェリン・グラック (Cellin Gluck) 監督『杉原千畝 スギハラチウネ』 日本、2015年

〔2015年12月22日(火)鑑賞〕

杉原千畝という人物についての説明は必要あるまい。

杉原について「日本のシンドラー」と讃えられるよく知られた面のみならず、満州国外交部事務官時代から始まる諜報の達人たる側面も描かれていて、なかなかいい映画である。

実は、本作への私の期待値はあまり高くなかった。この種の映画は得てして、作り手の(悪い意味での)思い入れが色濃く出てしまいがちだからだ。例えば、実在のスパイを題材にした映画を、“スパイ映画”だと思って期待して見てみたら、外国のスパイに協力した日本の知識人などがやけに好意的に描かれ、登場人物たちがやたらに共産主義を讃え、BGMに「インターナショナル」がかかり、エンドロールとともに「イマジン」が流れるという、あまりにもおかしなプロパガンダ作品で、うんざりさせられたり。歴史上の人物・出来事を題材にしていて、作り手の勝手な色を付けられやすいという性質を、ある種の映画はどうしても持ってしまう。

従って、本作に対して私はあまり期待していなかった。それでも見てみようと思ったのは、この監督の経歴からみてあまり変な作り方はしないだろう、という気がしたからだ。

見てよかったと思っている。外交官の、人間の物語だ。歴史上の人物・出来事を描くのであればエヴィデンスに基づくべきであり、演出はあくまでも演出であり、作り手の思想と感情の投影が過剰になってはならないということを、製作陣はよく心得ているようである。そして、映像も丁寧だ。

ただ、気になった点もいくつかある。例えば、満州国のエリート外交官と関東軍の軍人が、国際問題についての情報交換を酒場で大っぴらにやるところなどは、いくらなんでも状況設定が変だと感じた。もっとしっかり詰めてほしかった。

推奨度: 75点(/100)