暗号通貨(仮想通貨)というものがどうして胡散臭いのかといえば、特定の国の政府や中央銀行によるまともな保証がなく、やたらと相場が乱高下するからである。あした価値が倍になるかもしれないしゼロになるかもしれないようなものの媒介する売買なんて、恐ろしくてできない。しかし、暗号通貨に使われているブロックチェーンが技術として非常に優れているのは事実で、それなりの国の政府・中央銀行がブロックチェーンを使って、正規の通貨としての暗号通貨を発行するようになれば、話はにわかに変わってくる。

そういうものに近い性格のもの、すなわちステーブルコインとしてFacebookの開発した暗号通貨が、リブラである。しかし、10月にマーク・ザッカーバーグ氏がアメリカ下院の公聴会に呼び出され、ボコボコにたたかれ、リブラの発行は延期となった。

ザッカーバーグ氏が強調しているのは、アメリカが暗号通貨によるイノベーションの主導権を握り、世界で銀行口座を持たない10億人以上の成人を支援することができる、ということだ。私は彼のことは好きではないしあまり信用していないが、この意見はもっともだと思った。この話、今アメリカが乗らなければ、あの国が機先を制してしまう。

さて、ここで昔の話を少し。あるいは近未来の話かもしれない。

この紙きれで大ハーンはすべての支払いをすまし、ひろく国内および勢力範囲に通用させている。受け取るのをこばめば死刑に処せられる。大ハーンの領土内ではどこでも、純金の貨幣と全く同種に、これで品物が売買できるし、非常に軽くて便利だ。

13世紀、はるばるベネチアから元へやって来た商人は、紙幣とかいうただの紙切れが金貨や銀貨のような決済手段になっているのを見て、大いに驚いたようである。