9年前、テレビは地震と津波被害の状況を昼も夜も伝え続けました。そして計画停電の実施が東京電力から発表されると、テレビが夜通し繰り返しそれを伝え周知させました。SNSなどでホーシャノーのデマが出回っても、テレビがそれに乗ることは基本的にありませんでした。ネットの時代とはいっても、やはり非常時にはテレビが果たす役割はあるのだと感じた人は、少なくなかったはずです。

ところが、今はどうでしょうか。新型コロナウイルスに関してテレビが平気で嘘やデマをばらまきまくっています。と言って悪ければ、視聴者の勘違いを増幅するようなことを意図的に言い触らしている、と言い替えましょうか。明らかに不安を売って金儲けをしています。ネットに接続するデバイスを持たないあるいは十分に使いこなせない、テレビを情報源にしている層が、やたらと買いだめに走ったりするのも、テレビによって嘘やデマを刷り込まれ、無用の不安を煽られていることが原因の一つでしょう。

9年でテレビはここまで落ちぶれてしまいました。もう駄目でしょう。これからは一気に信用を失ってゆくだけです。テレビで言っていることだからきっと嘘だろう、と思われる時代がもうすぐ到来します。

そんなことを考えていたら、IT界隈からも何か変なのが現れました。そう、9年前にも意気揚々と世のため人のためにと名のりをあげ、現場をめちゃくちゃにしてこっそり去っていった、あの人です。

これはかなりまずいです。社会を混乱に陥れる恐れがあります。

「え、何が悪いの? 孫さんが金を出して、100万人の希望者が検査を受けられるようにするって言ってるんじゃん。すばらしいことでしょ」──とか思っている、脳の中身が孫氏の頭髪なみに薄い人のために、簡単に説明しますね。

このような〈善意〉の検査で陽性反応が出たものの、実際には無症状あるいは少し家で寝ていればいいという程度の軽症の人が、大きな勘違いをして「孫さんの検査で陽性って出たんです! 私、感染してるんです! 専門の治療をしてください! 助けて!」と病院に殺到することになるのですよ。救急車を呼ぶ奴まで現れるかもしれません。

笑いごとではありませんよ。トイレットペーパー買いだめなどを見ても分かるように、世の中には馬鹿が多いのです。そして、孫氏提供の検査なんかに喜んで飛びつくのが、そういう種類の馬鹿ばかりであろうことは、容易に想像できます。

現在行われている検査(医師が必要と判断して患者に対し行っている検査)では、検査数に対して陽性者が5〜6パーセントですから、孫氏提供の検査(ちょっと風邪気味という程度の症状しかなくても希望すれば誰でも受けられる検査)ならもっとかなり低い率になるでしょう。仮に1パーセントとすれば、100万人の検査で1万人の陽性者が出ることになります。病院としては、いきなり1万人の外来患者が増える事態なのですよ。それも、本来は病院に来る必要すらないのにわざわざやって来て、治療しろ治療しろとしつこいモンスター・ペイシェントが、1万人です。どうするのですか、これ。

そんなわけですので、孫氏の提案にはさんざん批判が寄せられたため、2時間ほどで引っ込めることになりました。

賢明な判断といえるでしょう。

ところで、孫氏はなぜこんな企画を思いついたのでしょうか。普通にまともな感染症専門医や保健関係者と話を詰めていれば、こんなおかしなことは言いださないはずなのに。

そんな疑問に対する答えへの鍵は、ソフトバンクグループの医療関係企業、SBIファーマSBIバイオテックの役員名簿の中にあるかもしれません。結構いろいろと分かりやすいからくりです(笑)

さてさて、孫氏の困った思いつきも無事つぶれたところで、われわれは例によって手洗い励行でいきましょう。無駄な検査100万件より、ひとりひとりの手洗いのほうが、感染症予防にはずっと効果的ですから。