数日前のこと。最近世話になり始めた自動車整備工場があって、その日も取り寄せてもらった新品部品の交換を依頼した。作業自体は十数分で終わるが、接着剤を使う箇所があって、そこがちゃんと固まるまでに2〜3時間置いておかないといけないとのことで、クルマを3時間ほど預けた。

かくして3時間後、クルマを受け取りに行き、まず事務所にうかがったところ、一人の見知らぬ女性店員がいるだけである。はて、今まで見たことがないけどこんな店員もいたのか、などと思いつつ声をかけた。すると、その見知らぬ女性店員は「ああ、小山さん、作業は終わってますよ」と返してくる。

は? なぜ見ず知らずの彼女が私の名前を知っているの?

そう私がいぶかしんだ直後、彼女はそばに置いてあったマスクを取って、顔に装着した。何と、いつものよく知っている店員であった。

マスクを着けた状態でしか会ったことのない人は、素顔を見ても誰だか分からないという、なかなかおもしろい体験をした次第である。

なぜこういう現象が起きるのか、自分なりに考えてみた。恐らくは、マスク姿でしか見たことのない人について、その見えない部分を私は無意識のうちに勝手に想像しているのだろう。そして、マスクを取った実際の素顔を見ても、無意識に想像していた顔かたちと異なっているため、同一人物と認識できない。そういうことではあるまいか。

新生活様式は、人間の容貌認知機能に何かとんでもない影響を与えているかもしれない。