テクスト: 福田和代『サイバー・コマンドー』 東京、祥伝社、2015年。初刊は同社、2013年。

〔2015年9月1日(火)読了〕

防衛省サイバー防衛隊を舞台にした物語である。日米と中共との間で勃発するサイバー戦争を描く。

ネットを題材にしたミステリーは昔何冊か読んだけれども、どうも何か勘違いしているものばかりだった。中には、サイバー空間を、魑魅魍魎の跋扈する異次元世界のようにとらえているオカルト風味のものもあった。だから、帯に「緻密な取材だから描ける作品のリアリティが、セキュリティのプロを唸らせた、本物の迫力」とうたっている本書には、いくらか期待した。

結論からいうと、帯のうたい文句に誇張はあっても偽りはなかった。緻密な取材に基づく、リアリティを感じさせる作品である。それは確かだ。そういう意味では期待に応えてくれた。

けれども、それだけでしかない。話はつまらなくはないが特におもしろくもないし、文章ははっきりいってつまらない。何だかソフトウェアの仕様書を読んでいるような気分になる。地の文にネットのセキュリティについての無駄な説明が多い。というか、無駄な説明が多いように感じさせてしまう書き方をしている。

ただ、これだけは言っておこう。本書に描かれているような出来事は実際に起こり得る。その意味において、サイバー戦争なんて自分とは無関係だと思っている人には読んでおいてもらいたいとも思う。