小泉徳宏監督『ちはやふる 上の句』 日本、2016年

〔2016年3月24日(木)鑑賞〕

累計発行部数1600万部(3月時点)の漫画が、堂々の実写映画化だ。

あの漫画を、前篇「上の句」と後篇「下の句」の合わせて4時間程度の映画にどう収めるのか、と思っていたが、「上の句」を見た限りではかなりよくまとまっている。「下の句」にも期待してよさそうだ。

“かるた馬鹿”の千早を筆頭に5人で、都立瑞沢高校かるた部が創部される。「上の句」では都大会優勝までの軌跡を描く。青春ものといえば専らスポーツばかりが題材にされるが、本作では文化系の競技かるただ。

主演に広瀬すずを持ってきたというところにあざとさを感じる人が多いかもしれない(私も当初感じた)けれども、見てみれば、広瀬は千早そのものでしかない。野村周平も太一そのものだ。そしてその他のキャスティングもみなすべて、よくもまあこんなハマリ役を集めてきたものだと驚くばかりの布陣である。

脚本は遜色がない。そこでその和歌をそういうふうに織り込んできたか、と感心させられる。「百人一首」を、原作に出てくる和歌に限らずすべてよく読み込み、研究した上で書いたものであることが分かる。そして、思わず声を出して笑ってしまうような箇所も随所に。競技かるたを題材にしているが、競技かるたのことをよく知らない人でも、あるいは「百人一首」をよく知らない人でも、すんなりと物語の世界に入っていけるのではないだろうか。

映像と音声もすばらしい。風景はいちいちきれいだし、競技の場面の画は迫真といえよう。今の時代の映像技術だからこそ作れる画を見事に作り上げている。

ただ一つ、問題らしきものがあるとすれば──観客は高校生のカップルばかりで、オジサンが一人で見るのはなかなか勇気がいることであった。「下の句」を見る時もまた勇気を振り絞らなければなるまい。

さて一応、タイトルの由来となっている和歌を引用しておこう:

ちはやぶる神代もきかず竜田川からくれなゐに水くくるとは

不思議なことが多くあったという神々の時代にも、こんなすばらしい眺めがあったとは聞いたことがない。竜田川の岸に広がる唐紅のもみじが、下をくぐる水の流れを鮮やかな括り染めにするとは。

[在原業平]

推奨度: 70点(/100)