最近すっかり影が薄くなってきている野党第一党の立憲民主党であるが、代わって俄然存在感を見せてきているのが共産党である。もちろん悪い意味でだ。

共産党の志位委員長は7日、党本部での会合で、ウクライナ情勢を踏まえ、「急迫不正の主権侵害が起こった場合には、自衛隊を含めてあらゆる手段を行使して、国民の命と日本の主権を守りぬくのが党の立場だ」と述べた。

共産党は恥を捨てることにしたらしい。もちろん悪い意味でだ。もはや笑いしか出てこない。

まず、共産党はその馬鹿げた綱領を恥ずかしげもなくネットで公開してくれているので、それを参照してみよう。

自衛隊については、海外派兵立法をやめ、軍縮の措置をとる。安保条約廃棄後のアジア情勢の新しい展開を踏まえつつ、国民の合意での憲法第9条の完全実施(自衛隊の解消)に向かっての前進をはかる。
「日本共産党綱領」 << 日本共産党]

自衛隊の「軍縮」を進め「解消」を目指す旨が、しっかり明記されている。一方、志位氏がこのほど述べたのは「急迫不正の主権侵害が起こった場合には、自衛隊を含めてあらゆる手段を行使して、国民の命と日本の主権を守りぬく」ということである。これらは、共産党の内輪のノリでは矛盾しないものなのかもしれないが、一般的には全く通用しないだろう。

〈自衛隊は縮小してなくしてゆくべきものだ。でも必要な場合は自衛隊を使う〉─。自衛隊を何だと思っているのか。共産党の内輪のノリでは意味が通る話なのかもしれないが、一般的には全く意味の分からない言いぐさだ。必要なものであれば必要性の度合いに応じて維持するというのが、まともな頭での思考であろう。もちろん必要性が下がればいくらか縮小してかまわないが、今はそういう場面ではない。

そもそも共産党の自衛隊に関する考え方は、初めから訳が分からない。

さかのぼれば日本国憲法の制定に当たって帝国議会での審議で、自衛権を否定するかのごとき9条に共産党は反対していた。そんな同党が今や護憲を標榜し、9条を神棚に祀っている。一体どこでどういう事情でそんな宗旨替えが起きたのか、私は不思議でならなかったのだが、聞きかじった話では、のちの政府が9条は自衛権を妨げるものではないとの姿勢をとるようになったため、同党も9条を認めることにしたのだという。ならば、同党は自衛権を行使するための自衛隊も認めてしかるべきなのだが、なぜか自衛隊を違憲だと言い続けそれを党綱領にも明記しているのは周知の通りである。

そう、憲法9条と自衛隊との関係についての共産党の主張には、全くもって一貫性がない。もちろん国内外の状況の変化に応じて方針転換はあってもいいが、それには相応の説明があるべきで、そんなものは今まで見聞きしたことがない。

自衛隊を鬼の子のように忌み嫌い、自衛隊員が街なかを歩くだけでもギャーギャー騒ぎたてる連中が、「急迫不正の主権侵害が起こった場合には、自衛隊を含めてあらゆる手段を行使して、国民の命と日本の主権を守りぬく」などと抜かす。一体どういう料簡なのか。急迫不正の主権侵害が起こった場合に国民の命を守る役割を果たす自衛隊が、なぜ訓練で街なかを歩くことすら許されないのか。

繰り返すが、党の方針を変えるなら変えてもいい。ただしそれには相応の説明があるべきだし、さらに党綱領の改定もなされるべきである。

〈憲法9条は自衛権を否定するから駄目です。でも自衛権を否定しないのなら9条を認めます。でも自衛権を行使するための自衛隊は違憲、なくすべきです。でも自衛隊が必要なときは使います〉──こんな話が党の外に通用するなどと本気で思っているのか。そんなふうで恥ずかしくないのかと言いたくなるが、まあ、恥ずかしくないのだろう。