ある夏の出来事 水着撮影会のない世界
それはそれは、今からさほど遠くない未来の、ある夏のこと。
県内某高校の女子生徒2人(ともに17歳)が、夏休みに県営プールへ遊びに行った。お盆の時期を外して平日を選んだので、真夏の晴天ながらプールは混み合ってもおらず、彼女らは気ままに水遊びをして過ごしていた。
そのうち、ちょいとふざけてグラビアモデルみたいにセクシーなポーズをとり、互いにスマホで写真を撮り始めた。それをLINEやTwitterに投稿してキャッキャと楽しんでいる。
すると突然、遠くからホイッスルの音がけたたましく鳴り響いた。
見ると、パンツスーツなどというプールにはまるで似つかわしくない格好の中年女性が、盛んにホイッスルを吹きながらこちらへ走ってくる。
女子高生2人が何ごとかと呆然としていると、中年女性は彼女らの所へ来るや叫んだ。
「卑猥! しかも未成年! 公序良俗に反する! 性の商品化を助長! 男女共同参画の観点から問題! 県営プールに不適切! ただちに退場しなさい!」
中年女性の腕には、赤地に白で〈プール風紀〉と書かれた腕章が見えた。女子高生たちは知らなかったが、実はそれは〈県営プール風紀監視員〉というもので、その仕事は某左翼政党の下部組織が県からの委託により遂行している。もちろん県から給料が支払われるという利権ものである。
「あのぉ、わたしたち卑猥なこととかしてませんけど」
「してたでしょ! 唇をすぼめて、体をクネクネさせて、尻を突き出したりして!」
「えっ、それが卑猥なんですかぁ? 女豹のポーズとかしてたわけじゃないしぃ」
「十分卑猥です! だいたい、未成年がビキニなんか着てる時点で駄目です!」
「何よそれぇ。高校生がプールで普通のビキニを着てモデルっぽいポーズをすることの、何が何の法律違反になるんですかぁ?」
「黙りなさい! 私が卑猥と判断すれば卑猥、違反と判断すれば違反なんです! 私は県の委託で監視員をやってるんですよ! ただちに退場しなさい!」
──みなさんは、こういう社会の到来を望むだろうか。