昨夜は今年のNHK大河ドラマ「どうする家康」最終回が放映されました。サプライズ出演に関する私の予想はまるっきり外れましたが、小栗旬の演じる天海があの2冊の本を手にしながらあの台詞を言った時にはニヤリとさせられましたね。さすがです。

大団円の終幕はいかにもNHK臭い感じがしてちょっと興ざめでしたけど、狡猾な狸でもなく神の君でもない、〈人間・徳川家康〉を描くドラマは、見事に完結しました。

まあ、徳川家康をやたら悪者扱いするのは、太閤贔屓の上方と薩長史観の影響による講談やら小説やら漫画やらのせいだと私は思っています。大河ドラマはしょせんドラマなので史実に忠実ではありませんが、家康の実像はあんな感じだったと思いますよ。幼少の頃から大名間の駆け引きに振り回され、戦が嫌で嫌でたまらず、臆病で、卑怯と言われようがなんだろうが忍を使い大砲を撃つ安全策をとり、とにかく乱世を終わらせたかった人だと思います。江戸や江戸城の造りを見れば、いかにもそんな人の考えそうなものになっていますよ。

元は海に近い廃城一つに漁民の苫屋がポツポツあっただけの荒野、雨が降るたび川が氾濫して流れが変わり、そこらじゅうどこもかしこも湿地が広がるだけで草ぼうぼう、家も建てられないし田畑も開けない土地が果てしなく広がる──それが江戸でした。それが、家康が来てから100年余りで人口100万人を擁する世界一の大都市に変貌します。ちなみに、同時期に世界第2位の都市だったロンドンの人口は50〜60万人程度でした。しかも、江戸のほうが比較のしようもないほど清潔な街でした。私が関東人だからというわけではなく、やはりこの東京を一から造った人物をそれなりに評価しないわけにはいきません。

──と、長々と「どうする家康」についてつい書いてしまいましたが、実は私が書きたいのは来年の大河ドラマ「光る君へ」についてなのです(笑)。ここからが本題です。

さすがに『源氏物語』を映像化するとR15+指定ものになってしまうためNHKでは無理なようで、『源氏物語』の作者である紫式部の一生を描くドラマが「光る君へ」です。原作はなくオリジナル脚本ですね。チャンチャンバラバラが好きな大河ドラマニアたちにはウケが悪いかもしれませんが、軍記物や幕末ものに食傷気味の私は違う方向のものとして期待しています。

とはいえ、紫式部が有名な割には彼女個人に関する史料がそんなに充実しているわけでもなく(何せ下級貴族の出なので)、制作は大変だと思いますよ。従って、紫式部を主人公に据えつつ、実際にはあの摂関政治時代の朝廷周辺の権謀術数を描いてゆくものになるのでしょう。

すでに主要キャストは発表されていますが、それ以外でぜひ登場してほしいと私が思っている人物を、2人ほど──

小式部内侍

紫式部が40歳ぐらいの時に、10代半ばだったはずの小式部内侍が歌合で社交界デビューしています。その時の和歌があのあまりにも有名な一首──

大江山いく野の道の遠ければまだふみもみず天の橋立

嫌味なオッサンに少女が一撃を喰らわせたこの逸話を、ドラマのちょっとした笑いの要素として取り入れてもらえないかと。

菅原孝標女

『更級日記』の作者です。紫式部が50歳近くの頃に、数え13歳の菅原孝標女が物心ついた頃から暮らしていたド僻地の上総をあとにして帰京してきます。とにかくこの菅原孝標女という子は〈元祖オタク〉ともいえる人で、近頃のアニメオタクたちにも知られていたりしますね。平安時代に何のオタクだったのかって、物語オタク、中でも源氏オタクですよ。彼女は『源氏物語』で人生が狂ってしまった(笑)ので、ちょっと紫式部にも責任をとってもらいたいところですな。