『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』
武内英樹監督『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』 日本、2023年
〔2023年12月27日(水)鑑賞〕
公開直後に見に行くつもりがいろいろ慌ただしくて延ばし延ばしになったあげく、新型コロナで寝込んでしまったためまた延び延びになって、今日ようやく見ることがかなった。何としても年内に見ておかなければならない一作だった。
大阪の横暴に苦しんでいた滋賀、奈良、和歌山の関西勢が、埼玉解放戦線と組んで、大阪化の危機から日本を救ったという、実話に基づく物語である。もし彼らの奮戦と勝利がなかったら、目を爛々とさせた人々がコナモンを食いながらボケとツッコミを演じる光景が日常的に全国で見られるという、恐ろしい日本になっていたかもしれない。日本を白い粉の脅威から守った彼らの活躍は、もっと知られてよい。
さて、一般に歴史映画というものは必ずしも史実に忠実に作られているとは限らず、監督や脚本担当の独自の史観などが多かれ少なかれ入っているものであり、本作も例外ではない。私は決して史実と異なる部分を見つけてうるさく言ったりするつもりはないのだけれど、本作においては史実を知らない人や他地方の人に大きな誤解を与えかねない要素が一つあるので、念のためそれについて簡単に説明しておきたい。
JR武蔵野線である。
武蔵野線は本作において、埼玉の横のつながりすなわち東西の交通を促進するために建設された、という設定になっているけれども、これは事実ではない。武蔵野線はもともと、東京の都心部を避けて北郊を迂回する貨物線として計画されたものであり、ついでだから人が乗る列車も走らせたという路線である。鉄道需要がろくになかった所を走っていたため、開通当初の列車はわずか6両編成で1時間に1、2本、ラッシュアワーでも3、4本しかない、まさに田舎の電車であった。そして、駅のホームで列車を一本待っている間に、貨物列車が3編成ぐらい通過してゆくのだから、イライラすることこの上ない。
とはいえ、それも今は昔である。今の武蔵野線は8両編成、ラッシュアワーには5分に1本、少ない時間帯でも10分に1本は走っているので、東京の通勤圏の住宅地の足としてはそれなりに機能している。ただ、それでも区間によってはラッシュアワーの混雑ぶりがひどいため、10両編成化あるいはさらなる増便が期待される。
なお、本作中に〈埼玉の海〉として登場するしらこばと水上公園は、実際には武蔵野線の駅からのアクセスはよろしくない。
そうそう、最後にもう一つ。行田に田んぼアートを見るためだけの展望タワーが存在するのは、ネタではなく事実である。
推奨度: 75点(/100)