昨夜のNHK大河ドラマ「光る君へ」第10回「月夜の陰謀」では、そのタイトルの通り寛和の変が描かれました。しかし、寛和の変は作中で言及されていた通り6月23日未明の出来事であり(一応私も確認しました)、そして旧暦では23日の月は作中で見られた通り下弦の半月ですから「月夜」という表現はやや違うのでは、と思いつつよく考えてみたら、藤原道長とまひろ(紫式部)の逢引が満月の夜(6月15日ごろ)のことでしたので、そちらを指して「月夜の陰謀」ともいえますね。本作の各回のタイトルはこんな感じで、裏の意味が隠されていることが多いです。

以前に道長から和歌を贈られた時は、返歌しないというとんでもなく非常識な対応をしたまひろでしたが、今回はちゃんと返していました。ただし、和歌を贈られたのに対して漢詩を返すという、かなり変則的なやり方で。作中でも、藤原行成が道長の相談を受けて「それはずいぶんと珍しきことでございますね」と言っていましたね。そして、そこにどういう意味があるのかについて行成が私見を示してくれましたが、おかげで私もなるほどと思いました。つくづく、本作の脚本は技がありすぎて恐ろしいほどに見事です。

漢詩のことはよく分からないのでさておき、とりあえず道長が贈った和歌3首については画面を止めて読み取りました。いずれも『古今和歌集』所収で、1首目は覚えがあったのですぐ見当がつきましたが、2首目と3首目は知らないものだったためググったりしつつ苦労して判読しました。

思ふには忍ぶることぞ負けにける色には出でじと思ひしものを
[読人しらず]
死ぬる命生きもやすると心みに玉の緒ばかり逢はんといはなん
[藤原興風]
命やは何ぞは露のあだものを逢ふにしかへば惜しからなくに
[紀友則]

ちなみに、作中での道長による和歌の筆はすべてひらがなで、1カ所だけカタカナでした。ひらがなといっても変体仮名混じりのくずし字ですから、ヒントなしで見たら分からない状態です。まひろの漢詩は楷書なのでそのまま読もうと思えば読めますが。

ちょっと私も真面目に変体仮名を覚えようかという気になってきました。アメリカでは筆記体を教わっていない若い世代が古文書を読めなかったりするため、このごろ筆記体の授業を復活させたらしいですが、日本もある意味それと同じような対策をしたほうがいいのでは。

さて、道長がまひろを連れて駆け落ちしようという〈月夜の陰謀〉は、まひろが冷静だったために成らなかったものの、もう一つの〈月夜の陰謀〉すなわち花山天皇を出家させるという藤原兼家の計画は史実の通り成功しました。陰謀関係者以外の誰にも知られないようにしつつ、一夜にして天皇を退位・出家させるなんていう荒技、よく思いついたものですわ。本当に史実なのかという疑いすら抱いてしまいます。