思うところなどいくつか理由があって、このほど人生で初めて新車というものを買ったのだが、実はこれまでの私はずっと中古車ばかり乗っていた。それも、塗装の剥げたのとか20年落ちとか相当ボロいのにも平気で乗っていた。基本的には〈車はきちんと動いてくれればいい〉という考えの持ち主だったので、運転性能と居住性しか気にしていなかったのである。

そんなふうに古い車にばかり乗っていると、それなりにトラブルにも見舞われるため、嫌でも車に関する知識が付いてくるので、車の話を人とすることもある。すると「車が好きなんですか?」と訊かれたりもするのだが、正直、これは嬉しくない質問だ。なぜなら、いわゆる〈車好き〉〈車マニア〉にはクズが多く、あいつらと同種の人間としてみられたくはないからである。

うちの近所に、いわゆる〈車好き〉〈車マニア〉が個人でやっている自動車整備工場があり、ネットでの評判は高い。だが、私が一度(きちんと予約した上で)行って作業を頼んでみたところ、かなりぞんざいな扱いをされて甚だ不愉快な思いをした。何のことはない、高級車の客には親切丁寧で(ネットで高評価を付けているのは高級車乗りである)、私のような塗装の剥げた20年落ちの車の客はまともに客として扱ってくれないのだ。誇張なく言うが、今まで車関係で経験した中で群を抜いて最低の業者だった。

あるいは試しに、ネット上で車についての情報交換の場ということになっている掲示板等をのぞいてみるといい。最初に誰かが質問を投げ込むと、それに対していわゆる〈車好き〉〈車マニア〉たちによる謎のマウント合戦が始まり、けなし合いになり、進んでゆくうちにそもそも何の話題だったのかさえ分からなくなってしまう、という例はいくらでも見つかる。あいつらは本当に根性が腐っているとしか思えない。私は車関係の情報を探していてそういうのを見てしまうことが時々あるが、そのたびに不愉快になる。

十数年前、たまたまある自動車関係の情報交換掲示板で見かけたスレッドがひどくて、今でも覚えている。質問者は恐らく若い女性とおぼしき軽自動車乗りだった。初めて自分の車を持ったのかもしれない。ガソリンスタンドでエンジンオイルに合成油を奨められたのだが、やはり合成油にしたほうが車にはいいのだろうか、という趣旨のことを尋ねていた。これに対するいわゆる〈車好き〉〈車マニア〉たちの回答がひどいのばかりで──

「軽に合成油を入れても走りの違いが実感できることはないですよ」─。アホか。普通にまともに日本語を解する人なら分かると思うが、質問者は走りの違いが実感できるかどうかなど訊いていない。合成油にしたほうが車にいいのかどうかを訊いているのだ。

「軽に合成油って自己満足でしかありませんね」─。アホか。自己満足ということを言うなら、お前らみたいないわゆる〈車好き〉〈車マニア〉の連中のほうが自己満足ばかりではないか。インチアップだのツライチだの、はたまたサーキットに行くわけでもないのにエアロがどうのこうのとか、そんなのがかっこいいと思っているのはお前らみたいな変態だけで、世間一般のまともで常識的な人間は「馬鹿じゃねえの?」とニヤニヤしているぞ。

自分の車を大事にしたいのでオイルをどうしたらいいかと質問する素人と、それを馬鹿にするだけのいわゆる〈車好き〉〈車マニア〉と、果たしてどちらが本当の意味での車好きといえるかは、わざわざ言うまでもあるまい。

いわゆる〈車好き〉〈車マニア〉と、本当の意味での車好きは、まるで違う人種だ。