昨日のNHK大河ドラマ「光る君へ」第46回「刀伊の入寇」では、そのタイトルの通り歴史の一大事件が勃発しました。

しかし──。

本ドラマを通じて、これほどにまであり得ない場面続きの上に安っぽい脚本の回はなかったように思います。いやぁ、なかなかにひどかったですね。いろいろな要素を紡ぎ合わせて、藤式部(紫式部)が太宰府を訪れさらに松浦に向かおうとする途上で刀伊の襲来が起こる、という基本の筋書きはうまく考えられたものだと思うものの、深夜の若年層向けイーカゲンSFドラマっぽい風味が濃厚に重ねられているのは、何だよそれって笑ってしまいました。

これ、シリーズ全体のバランスのせいだと思いますよ。残り3回という最終盤に刀伊の入寇という大事件をぶっ込んできたら、こういう駆け足で訳の分からない話に仕立てるしかなくなってしまいます。思うに、序盤で藤式部の母親が藤原道兼に殺害されるだのという余計な味付けをしていたせいで、時間が足りなくなってしまったのでは。

おもしろかったのは、博多が襲撃され合戦となっているさなか、おもむろに所を都に移して挿入された、源倫子とレッド姉さんこと赤染衛門のやりとりでした。『栄花物語』は藤原道長が生まれるよりもずっと前の時点から始まるのですよね。これはどういうことかと倫子に訊かれた赤染衛門が、藤原の栄花を書くのであれば大化の改新から始めたいところだが、それでは自分が生きているうちに道長まで書き上げられないので、仕方なく宇多天皇の世から始めた、と答えます。そんな赤染衛門の矜恃と気概が表現される中に差し挟まれる、猫の動きや鳴き声、ほんわかしたBGMなどが、倫子の穏やかな笑顔と口調と相まっていい味を出してくれていました。そして最後に倫子がにっこりとして一言、「もう、衛門の好きにしてよいわ」─。と、そこでまた猫の鳴き声。九州が異国の海賊の襲撃を受けるという事態と、都の平和ボケの様子の対照がよく描かれていました。まあ、今のどこかの国も似たようなもので、外患が差し迫っている時に国会や報道でどうでもいい話ばかりしていますしね。

さて、『源氏物語』も書き上げて役目は終わりとなり、自分の存在意義について悩んでいた藤式部は、周明との再会により、書くことへの思いをまた確かめました。紫式部が『源氏物語』のあとに何か書いたという記録はないはずですが、本作では何かを書くという設定にしているのでしょうか。個人的な思いとしては、この翌年の末に上総から帰京する菅原孝標女に、藤式部が出会ってほしいところではありますが。