NHK大河ドラマ「光る君へ」にはぜひ〈オタクの元祖〉でおなじみの菅原孝標女も登場させてほしいと、私はドラマが始まる前から最近まで何度も書いてきているのですが、実は最終回での登場が先月すでに告知されていたことを先週知りました。

ドラマではちぐさという名を与えられているようです。一昨日の放送のあとの次回予告にも一瞬現れていまして──

「男の欲望を描くことですわよ、きっと」などとやけに大人びた台詞を発するようですが、彼女が『源氏物語』を読み耽って暗記してしまったとかいうのは数え年14、15の頃のことですから、中1か中2のマセガキといったところですね。まあ、彼女は数え13になる前から『源氏物語』にあこがれていたという早熟娘ですので。映像の背景からすると藤式部の実家に来ているようで、これは史実にはないことですけれど、オタクが作家先生の家に押しかけるという今ふうの演出になっていそうなのは、それはそれでおもしろいかもしれません。

ところで、菅原孝標女の絡みで思い出したことがあります。『更級日記』の一節──

‥‥五月ばかり、夜ふくるまで物語をよみて起きゐたれば、来つらむ方も見えぬに、猫のいとなごう鳴いたるを、おどろきて見れば、いみじうをかしげなる猫あり。いづくより来つる猫ぞと見るに、姉なる人、「あなかま、人に聞かすな。いとをかしげなる猫なり。飼はむ」とあるに、いみじう人なれつつ、かたはらにうち臥したり。たづぬる人やあると、これを隠して飼ふに、すべて下衆のあたりにも寄らず、つと前にのみありて、物もきたなげなるは、ほかざまに顔をむけて食はず。姉おととの中につとまとはれて、をかしがりらうたがるほどに‥‥
[『更級日記』]

この猫、ドラマの中で、源倫子の所から逃げ出したのが菅原孝標邸に紛れ込んできた、という設定になったりしたらおもしろいと思うのですがね。「すべて下衆のあたりにも寄らず、つと前にのみありて、物もきたなげなるは、ほかざまに顔をむけて食はず」というのが、いかにも高貴な家から来た猫という感じですし。

なお、この猫のことは『更級日記』の中では、少し前に亡くなった藤原行成の娘の生まれ変わりだとの夢告を作者の姉が受けた、という逸話として語られます。