テクスト: 桂望実『我慢ならない女』 東京、光文社、2016年。初刊は同社、2014年。

〔2016年10月14日(金)読了〕

女流作家の樺山ひろ江と、秘書として彼女を支える姪の明子の半生を描く。

一人の作家の浮き沈みの人生など、そう聞いただけではまるでおもしろそうに思われない物語だが、本書は違う。ひろ江というキャラクターは、桂氏本人の人生経験が全く作用していないわけではないだろうが、全く違う道を歩んできた全く違う人物像として成立している。ビジネス書の分野が出身の桂氏の文体は淡々としているが、それでいて一行一行に執念というか怨念が込められているのを感じさせる文章のつづりは、全身全霊をかけて苦しみながら作品を生み出すひろ江を凌駕するとてつもないエネルギーを感じさせる。

書きたい、書かずにはいられない、作家の業。それはひろ江よりも桂氏が負っているものなのかもしれない。

本書では2つの異なる物語が並行する。その意図が、読んでいる最中にはよく分からないのだが、最後まで読みきった時には感嘆せずにはいられない。恐らくは、作中の人物に投影された作者の思いに客観性を持たせるべく作家たちが古来重ねてきた工夫の新たな形といえようが、このやり方がこううまくできるところは、桂氏ならではの技であろう。