テクスト: 服部まゆみ『この闇と光』 東京、KADOKAWA、2014年。初刊は角川書店、1998年。

〔2017年1月12日(木)読了〕

※注意: 本記事はネタバレを含みます。

レイア王女は失脚した王とともに、かつて「冬の離宮」であった森の奥の別荘に軟禁されている。幼くして失明したレイアのために、父王は音楽を聴かせ、物語や絵画を語り、文字を教える。目が見えず行動範囲も極めて限られていながら、しかしレイアはあらゆる美しいものに囲まれて幸せに暮らしていたのだった。

レイアが13歳の時のある朝、突然、世話係の女ダフネによって別荘の外へ連れ出されることになる。

すぐに「おとうさまは?」と聞いてみる。

「お出かけになられたわ。暴動が起きたのよ」とダフネは言った。「さあ、早く、着替えなさい。時間がないの」

[152頁]

物心ついてから初めて“外の世界”へ出ることになった盲目の王女を待ち受けていたものとは──。

1人称語りの主人公を盲目に設定することによる、一種の叙述トリック作品といえる。

どうも私の性格がひねくれているせいか、レイアも王も日本人であり軟禁場所が現代の日本国内であることは早い段階で感づいてしまった。もちろん種明かしをされるまで分からなかった事柄のほうが多いが、それらは種明かしをされてもなお納得しかねて消化不良というのが正直なところだ。

トリックの基本的なアイディア自体はとてもおもしろいのに、もったいない。決して駄目な小説だと言うつもりはない。標題にもある「影と光」の描写は、それこそ読者を恍惚とさせるに足る見事なものがある。ただ、ミステリーとしての出来はよろしくない。だいたい犯人の犯行動機が意味不明である。また、文章の作法としても「……」を多用しすぎる点などはあまり感心しない。

まあ、人に勧めてもいい作品ではあるけれども。