てるみくらぶが手配した航空券が無効になってしまい、すでに出国済みの客は帰国できなくなる、という話はあくまでも“ネタ”なのだけれども、ネタだと分かっていない人も多そうなので一応言っておこう。発券済みの航空券は、券に記載されている条件の範囲において無効にならない。従って、往路分だけ発券されていて復路分は現地受け取りというような特殊な例でなければ、帰国便に乗れないということはない。てるみくらぶ社長が「出国済みの客には自力で対処してもらうしかない」と言ったのは、あくまでも現地のホテル、ガイド、車などの手配についてのことで、航空券に関してではない。

と前置きをした上で、あえて“ネタ”の話を広げてみる。すなわち、海外旅行に出発したあとで、発券済みの復路の航空券が(少なくとも運送約款上はあり得ないことだが)旅行代理店の金銭事故等により無効になってしまった場合、帰国の手段はどうするかという話である。

Twitterではこのネタでやや盛り上がっているのだが、それを見ながら私は2つのことを思い出した。

1つめは、2002年夏のこと。私はタイへ旅行するつもりでいたのだが、当時インドへシタールの修行に出ていた友人がその時期にタイに行くというので、ではタイで合流しようということになった。そのことを海外旅行経験のない知人に話したところ「タイで合流って、そんなことできるんですか?」と返され、私は意味が分からなかった。「できるもできないも、普通に待ち合わせするだけですけど」と言うと、「待ち合わせ? どうやって?」とまた意味不明な質問を重ねてくる。「どうやってって、場所と日時を決めて待ち合わせするんですけど」と答えたのだが、どうも納得していないようだった。

2つめは、かなり時をさかのぼるが1992年夏のこと。旅行業界に勤めていた私は、1度だけツアーの添乗業務をやらされることになった。当時はまだ添乗員に特別な資格は必要なかったから、代理店で人手が足りなくなると取引先企業の若手社員が「研修」と称して駆り出されたりしたのである。そのツアーでは帰路にブダペストで飛行機の乗り継ぎがあり、乗り継ぎ塔乗30分前までいったん解散ということにしたのだが、その際にツアー客の一人二人から「トイレはどこですか?」と尋ねられた。いくら旅行業界人とはいえ世界各都市の空港のトイレの場所など把握しているわけがなく、構内案内図でも見て探すしかないのだが、その時私が見回したところ、ちょうどトイレの標識(あれは恐らく万国共通だ)が目に留まったので「あそこですね」と教えた次第である。

さて、これら2つのエピソードが何を意味しているかというと、日本にいるときと同じようにすればいいだけのことが、外国に行ったとたんにできなくなる人が少なくないらしい、ということである。言葉の壁など関係ない。タイ語ができなくてもタイで人と待ち合わせはできるし、ハンガリー語ができなくてもブダペスト空港でトイレを探すことはできるのだ。なのに、それができない人がいる。

さて、それを踏まえれば、外国にいて航空券が無効になってしまった場合、帰国の手段はどうするかという話にも、自ずと答えが見えてくるというものである。東京の人が沖縄からどうやって帰るかというのと同じだ。外国だからといってトラブルシューティングの基本が変わるわけではない。

まあ、落ち着け。