セカイノチガイ
一昨日、昼食をとろうと、ある国道沿いの松屋の駐車場に車を入れたところ、すぐあとから別の車が滑り込んでくるのが見えた。メルセデス・マイバッハS550という、あまりにも場違いな車である。
先に車を降りて店に入った私が、入り口近くの券売機で食券を買っていると、くだんのメルセデスから降りた2人連れも店に入ってきた。ちらっと見やったところ、40代半ばとおぼしき男女である。夫婦なのか恋人同士なのかは知らないが、親密さが伝わってくる男女だ。松屋なんかではなくホテルの最上階のバーがふさわしい出で立ちである。金持ちの風体というのは、上流の生まれ育ちなのかはたまた成金なのかというのが見た目で簡単に分かることがあるものだが、彼らは明らかに前者であった。
2人は、食券を買う私の後ろに並ぶのかと思いきや、何とそのまま後ろを素通りしていった。その刹那、女性のつけている上品な香水がふわっと香る。彼らは国道を眺める窓ぎわのテーブルに着いた。
食券を買った私は、彼らから少し離れた席に着く。
「あのぉ、食券をお買いいただけますか?」と、店員が彼らに言った。
「ショッケン?」と男性が訊き返す。入り口にある券売機を店員が示すと、2人はそろって席を立ってそちらへ。
「ああ、なるほど、ここで先にチケットを買うシステムなんだね」
「あら、おもしろいわね。何だか電車に乗るときみたい」
そんな2人のやりとりが聞こえる。楽しそうだ。
無事に食券を買った2人は再びテーブルへ。
「ほら、見てみな。この店は100パーセント国産野菜っていうこだわりがあるんだね」
「あら、ほんと。これだけ安いのに輸入ものじゃないのね」
「せっかくだからサラダも付けようか」
「ええ」
ちょっと待っててくれ、と颯爽と席を立った男性は再び券売機へ行き、追加の券を買う。
さて、私はというと、あまり時間がなかったものだから、やがて運ばれてきた豚バラ焼肉定食をさっさと平らげると店をあとにしてしまった。できればあの2人の様子をずっと観察していたかったものだが。
何というか、“世界が違う”ということを体感したランチ・タイムであった。