テクスト: 桂望実『嫌な女』 東京、光文社、2013年。初刊は同社、2010年12月。

〔2015年10月16日(金)読了〕

これはおもしろい! と、まず言っておこう。

物語の始まりは昭和53年(1978年)4月17日。主人公の徹子は、大学4年で司法試験に一発合格し、2年間の研修を経て、弁護士になってまだ2週間の24歳、いわゆるイソ弁だ。彼女はいきなり、遠縁の夏子の起こしたトラブルに関わらされる。夏子というのは男をたぶらかすのにたけた生来の詐欺師なのだ。もっとも、性格がズボラなのでどうも詰めが甘いのだけれど。

本作は弁護士ものではあるが、弁護士ものと聞いて誰もが想像する種類とは全く趣向が異なる作品である。何せ、弁護士ものなのに法廷劇の場面は一度も出てこない。「異議あり! これは誘導尋問です!」なんていう場面がないのである。

筆致は実に淡々としているのだけれど、物語はこちらの予想の裏をかき、あるいはするりとかわし、小さなどんでん返しが続き、気づけば読者はすっかり引き込まれている。「え、その話はたったそれだけで終わらせちゃうの?」「おっと、そうくるか」「あれ、まだ終わりじゃなかったのかよ」と小さな驚きを繰り返させ、本を閉じさせてくれないのである。

強いていえば、夏子の描写が薄すぎて像がなかなか見えてこない。恐らくこれは、読者の想像に委ねてしまおうという、著者の意図によるのだろう。この部分は読者の評価も分かれるところかもしれないが、私としてはこういう書き方もアリだと思う。