在日コリアンへのヘイトを煽っているのは誰か
「日韓連帯アクション0907」なるイベントが7日、東京の渋谷駅ハチ公前で開催されたそうである。そこで37歳の在日コリアン3世を自称する女性が行った演説というのが、SNS等で話題になっている。
彼女は、自分は日本生まれの日本育ちで韓国語は話せず、韓国へ帰れなどと罵られても帰ることはできない、と前置きした上で、次のように弁舌を振るった:
わたしたちはもう、生きるか死ぬかの瀬戸際にいると思ってます。実際、在日のアカウントで、もう、何かもう、悲壮なつぶやきをしている人がたくさんいます。で、もう別に呑気なことは思っていなくて、わたしたちはきっと、アメリカの日系人が収容所に送られたみたいに、在日の資産を凍結して収容所に送られるようなことも想像しているし、ナチスみたいにガス室に送るようなことも、きっとこの国はやると思ってます。で、ルワンダみたいに鉈を持って隣人が襲ってくるっていうことも想像してます。今の時代は個人情報を簡単に渡せるので、きっと、突然わたしの家にいろんな人がやってきて、連れ出されて殺されるっていうことも想像してます。で、それはわたしだけじゃなくて、在日の人みんな少しは考えてることです。
この極めてカツドーカ臭の強いアジ演説に対しては、日本人からはもちろんのこと、在日コリアンの人々からも強い批判が上がっている。在日コリアンの自分にとって日本はとても暮らしやすい国で、自分がガス室送りになるような事態は想像もできない、と。
私はというと、私のふだんの言説をきちんと理解できる脳を持っている人なら分かる通り、基本的には(一般にこの国でリベラルと称されるような似非リベラルではなく本当の意味での)リベラルな思考の持ち主であって、それは在日コリアンに対しても変わらない。例えば、選挙権がないことに不満を持つ在日コリアンに関しては、日本国籍を取得すれば選挙権を得られるのだから帰化して〈コリア系日本人〉になればよい、という意見を私は述べている[1]。つまり、在日コリアンも同じ日本国民として仲良くやっていこうよという、極めてリベラルな姿勢である。在日コリアンは半島へ帰れなどと私は言ったことはないし、思ったこともない。
確かに、韓国や北朝鮮の政府に関しては私はかなり強く非難することが多い。「嘘つきで約束を守らない国として世界におなじみの韓国政府」という現実に即した表現はしょっちゅう使っているし、韓国の社会や国民性の傾向について思うところを言うこともある。しかし、コリアン個々について、特に日本で生まれ育った在日コリアンについて、コリアンの血が流れる人間だからどうこうというようなことは一度も言ったことがないし、思ったこともない。
しかしながら、上記のようなひどい演説をぶたれたりすれば、いささか話は別だ。もし本当に、資産を凍結され収容所送りにされたりガス室送りにされたり、あるいは隣人に鉈で襲われたりするという恐怖を、現実のものとして肌で感じているのであれば、一刻も早くこの国から逃げ出したほうがよいのではないのか。それこそ身の安全を確保するために半島へ帰ったほうがいいのではないか。だいたい、ハチ公前などという大勢の目につく所でそんな刺激的な演説を披露して、身の危険を感じないのか。
私の昔の職場には在日コリアンの後輩社員が2人いた(韓国籍と北朝鮮籍)が、何も特別なことなどなく普通にいっしょに仕事をしていた。また、高校3年の時の英語教諭は在日韓国人であったが、おもしろくていい先生だったし、彼が最後の授業で卒業目前の私たちに贈ってくれた言葉は今でも私の座右の銘の一つである。
在日コリアンのほとんどは、在日コリアンだからどうという特別なことはなく、日本人と同様にこの国の市民として毎日を暮らしているだけのはずだ。ただ、この国にいたらガス室送りにされるなどとおかしなことをほざく、少数のおかしな在日コリアンが、在日コリアン全体の評判を下げているのではないのか。むしろ彼らこそが、日本人の在日コリアンに対するヘイトを煽ってはいないか。日本人は鉈を振り回して在日コリアンを襲う野蛮人だと言われて、喜ぶ日本人はいないだろう。