都の源氏物語ブームの末、次はあなたと筆を渡されたレッド姉さん
昨夜放映されたNHK大河ドラマ「光る君へ」第45回「はばたき」は、やはり藤式部(紫式部)の旅立ちや藤原賢子の宮中デビューを踏まえて「はばたき」というタイトルにしたのでしょうが、私は史実と虚構をきれいに織り合わせた平安裏話集のようなものとして楽しみました。
まず冒頭、前回藤原道長が詠んだ有名な駄歌「この世をば‥‥」の意味について、四納言が意見を交わすというおもしろい場面から始まりました。あれは実際、かの和歌の解釈をめぐる諸説を代弁しています。
- この世は俺のものだ、という傲慢な歌。
- すべて満足で今夜は最高だ、というパリピな歌。
- 10年前に藤式部が敦成親王の御産養の祝宴で詠んだ歌の本歌取り。
四納言は (1) か (2) かで意見を述べていましたが、本ドラマとしては真相は (3) ということにしています。しかも、本歌を藤式部が詠んだのが史実通りの祝宴ではなく、道長と二人だけの場だったとアレンジされている(第36回「待ち望まれた日」)ので、「この世をば‥‥」は10年越しの愛の返歌だという脚本です。なるほど、あれはこうするための伏線だったようです。
のちに『栄花物語』と呼ばれることになる道長伝記の執筆を、源倫子が藤式部に依頼していた前回に続き、今回は藤式部がそれを丁重に断る場面がありましたが、その台詞がまた振るっていました:
「心の闇にひかれる性分でございますので、『枕草子』のように太閤様の栄花を輝かしく書くことはわたしには難しいと存じます」─。これ、要するに、わたしはあなたの知らない道長の陰の部分をよく知っているので、あなたが望むような光ばかりの物語に仕上げることはできないのですよ、と言っているわけです。
もちろん、倫子もそういうところは解した上であの笑顔の返し、いつもながら怖いですね。まあ、いい人ではあるのですが。
『栄花物語』の作者は赤染衛門であるという説が最有力で、本ドラマでも結局、倫子から赤染衛門が執筆依頼を受けました。そんな重い役目を任され「まことにわたしでよろしいのでしょうか」と問う赤染衛門に、倫子はにっこりと笑って「衛門がいいのよ」─。あのぉ、あなたはその仕事を先に藤式部に頼んでいませんでしたっけ? まあ、いい人ではあるのですが。
そうそう、ネット界隈での赤染衛門の「レッド姉さん」という異名、私は結構好きです(笑)
さて、最後になってあの周明が久しぶりに再登場しました。突然登場して突然消えてしまったままではあまりにも不自然なので、恐らく刀伊の入寇に絡んで何らかの形で再登場するのだろうとは思っていましたが、まさか藤式部が思いつきで太宰府まで旅に出てそこで再会するという筋書きは全く想像していませんでした。確かに、かつて藤原宣孝が太宰府に赴任していたことがあるという縁はありますから、こういう展開はできなくもないですけど、下級貴族とはいえ貴族の女性が従者1人を連れて須磨や明石どころかはるばる太宰府まで旅をするなどという話には、さすがに首をひねりました。本ドラマは、ドラマである都合上、いろいろな〈平安貴族あるある〉ならぬ〈平安貴族ないない〉が盛り込まれていますが、それらの中でも藤式部に太宰府まで旅をさせるというのは〈絶対ないない、ないったらない〉でしょうな。