小泉徳宏監督『ちはやふる 結び』 日本、2018年

〔2018年3月18日(日)鑑賞〕

「上の句」そして「下の句」に続く第3作、完結篇である。瑞沢高校かるた部の3年目の春夏を描く。

もともと前2作への満足度が高かったため、高めの期待値を抱いての鑑賞であったが、それを上回る出来栄えの作品であった。笑えて泣けるという言い方をしては陳腐かもしれないが、本当に私は笑ったし泣きそうになった。単にさわやかでキラキラした青春映画ではなく、人生にとって大事なこと、「一線を越える」ということを教えてくれる秀作だ。

出演者たちの競技かるたの腕が明らかに上がっている。これは演出でそう見せているのかと思いきや、実際に訓練を積んでいて、みんなガチでレベルアップしているらしい。

「百人一首」の和歌に絡めた構成もいい。太一と新の思いをそれぞれ、平兼盛の「しのぶれど色に出でにけりわが恋はものや思ふと人の問ふまで」と壬生忠見の「恋すてふわが名はまだき立ちにけり人知れずこそ思ひそめしか」に対比させ、かつてそれら2首が輸贏を争った千年前の歌合に絡める。もちろん、本作のテーマともいえる在原業平の「ちはやぶる神代もきかず竜田川からくれなゐに水くくるとは」も、大方の観客の予想を裏切る形でとても効果的に使われる。名人が小野小町の「花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに」を引き合いに出しての人生訓を語るのも意外性がある。こういった脚本は、書き手が「百人一首」とその背景を徹底的に研究したからこそできた〈プロの犯行〉だ。

ところで、松岡茉優もいい感じに詩暢という悪役をこなしてくれた。スノー丸のライブの際の身なりときたら、まるで「モー娘。」応援隊長を思い起こさせたりするものだから、これは詩暢ではなく松岡そのままではないかと思わずニヤリとしてしまった。

とにもかくにも見事な完結篇である。スタッフと出演者のみなさん、素敵な青春映画をありがとう。

推奨度: 85点(/100)